雨の闖入者 The Best BondS-2

「貴女は可哀相に破滅の歯車に飲み込まれておいでです。厄介な……本当に厄介な種族に魅入られたが為に」


――知っている。

この男は、本当に自分の過去を知っている。


息が、上がる。

エナはからからに乾いた喉で浅い呼吸を繰り返した。


「知りたいとは思いませんか? 貴女を数奇な運命から解放する鍵を」


エナは瞳孔が開いたままの目を男へと向けた。

それは、エナにとって何よりも興味を引く重要な内容を孕んだ言葉で。


「そう……知りたくないわけがあるまい。さあ、こちらにおいでなさいませ」


エナは心引かれるままに男に一歩近付いた。


「本当に、知ってるの……?」


さも可笑しそうに笑う男の声も、魅力的な言葉の前には何の警鐘にもなりはしない。

無防備、という言葉が今のエナにはぴったりだった。

ぶら下げられた餌を前にし、回りが見えなくなっていく。


「知ってるなら、教えて……」


敵愾心さえ霧散させてエナは縋るような声を出した。

数奇な運命から解放される鍵こそ、エナにとって唯一にして最大の弱点であり、そして至高の望みだったのだ。

仲間と呼べる男達の存在も、目の前の男が敵でしかないという現実も、どうでもよくなるほどに。

男は、エナの耳元で囁いた。


「――――。」


エナは焦点の合わぬ目で、頷いた。







.
< 70 / 156 >

この作品をシェア

pagetop