雨の闖入者 The Best BondS-2
「貴女は可哀相に破滅の歯車に飲み込まれておいでです。厄介な……本当に厄介な種族に魅入られたが為に」
――知っている。
この男は、本当に自分の過去を知っている。
息が、上がる。
エナはからからに乾いた喉で浅い呼吸を繰り返した。
「知りたいとは思いませんか? 貴女を数奇な運命から解放する鍵を」
エナは瞳孔が開いたままの目を男へと向けた。
それは、エナにとって何よりも興味を引く重要な内容を孕んだ言葉で。
「そう……知りたくないわけがあるまい。さあ、こちらにおいでなさいませ」
エナは心引かれるままに男に一歩近付いた。
「本当に、知ってるの……?」
さも可笑しそうに笑う男の声も、魅力的な言葉の前には何の警鐘にもなりはしない。
無防備、という言葉が今のエナにはぴったりだった。
ぶら下げられた餌を前にし、回りが見えなくなっていく。
「知ってるなら、教えて……」
敵愾心さえ霧散させてエナは縋るような声を出した。
数奇な運命から解放される鍵こそ、エナにとって唯一にして最大の弱点であり、そして至高の望みだったのだ。
仲間と呼べる男達の存在も、目の前の男が敵でしかないという現実も、どうでもよくなるほどに。
男は、エナの耳元で囁いた。
「――――。」
エナは焦点の合わぬ目で、頷いた。
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