雨の闖入者 The Best BondS-2
「あのお姉さんね、一人で僕のお墓に来たんだ」
三人でトロルに行った時の話だとわかると同時に、胸が痛んだ。
ロウウェルは、自分が死んだことを知っているのだということに気づいたからだ。
「それでね、僕にこう言うんだよ」
くすくすと笑いながらロウウェルは楽しそうにゼルを覗きこんだ。
「ゼルをください、って」
ゼルはロウウェルの言葉に勢いよく噎(ム)せた。
それを笑顔で見つめながらロウウェルは続ける。
「ゼル兄はきっと僕の夢を本当に叶えるから、って。そして、そんなゼル兄を必要としてるんだ、って」
言われ、気恥かしさが込み上げる。
背中がむず痒い。
顔も少し火照り、ゼルは鼻の頭を掻いた。
「あと、何で逃げなかったんだ、って説教もされたなぁ。死んだら元も子もないでしょって。どんなカッコいい大義名分掲げてもゼルを悲しませたことには変わりないって、砂までかけられたよ。お墓に向かって説教だなんて、変わった人だよね」
ゼルは片手で顔を覆った。
エナの自分を思う気持ちは嬉しくないわけじゃないが、それ以上に、その行動に呆れ果ててしまう。
「あいつってヤツぁ、ったくもう……」
「いい人だよね、すごく」
墓に砂をかける人間の何処が良い人だというのか。
「そーかァ……?」
「そうだよ。ゼル兄のこと、本気で想ってなきゃ言えないよ、普通」
確かに村を守って死んだ人間相手に無関係の人間が説教するなど、まず有り得ない構図だ。
普通は勇気を称えたり、英雄扱いしたりするものだ。
説教をする人間が居たとしたならそれは死者自身を愛していた場合くらいだろう。
もしくは、死者を愛していた者を愛している者。
「……ったく、鬱陶しいヤツだよなァ」
一見、我儘ばかりが目立つ彼女の言動や行動だが、実のところ、彼女は驚くほど情に脆く、驚くほど意志が強い。
だから一度情に絆(ホダ)されてしまうと、全身全霊をもって、という位の勢いで相手のことまで抱え込む。
ゼルはそのことに気付いていた。
自分も、抱え込まれた内の一人だから。