雨の闖入者 The Best BondS-2
そして、人を抱え込んでおきながら、いざという時の彼女は驚く程自身に厳しい。

もっと頼れと言いたくなるほどに、彼女は全てを背負おうとする。

全て自分で何とかしてしまおうとする。

もっと割り切ることを覚えればいいのだ。

今回のことだってジストにまんまと嵌められたとはいえ、この港町をどうにかしようと考えている。

海を渡る方法なら、他に幾つもあったというのに。


彼女は逃げない。

否、逃げることが出来ない。


直面してしまった問題を回避する能力に欠けているのか、彼女はいつも真っ直ぐに前進し続ける。

手に届く範囲の人を見捨てられない。

元海賊の船長だったシャードに関してもそう、故郷を失ったゼルに対しても同じ。

割り切ってしまえば楽なのに、彼女は決して放り出さない。

それが彼女の長所であり、決定的な弱さだ。


難しい顔をしていたのだろう、ロウウェルはゼルの眉間に寄っていた皺を人差し指で押さえて笑った。


「びっくりする位、自分を中心とした人だよね。だけどその分、自分にはとても厳しい人だから」


ゼルの心を読み取った台詞に目の焦点を合わすと、そこには陽だまりが何よりも似合う笑顔。


「守ってあげてよね、ゼル兄」

「ロウ……」


何といえばよいのかわからぬままゼルは名を呼んだ。

その笑顔を見ていたら、急に聞きたい言葉が喉を突いた。


聞いても良いのか。

それともそれは禁句であるのか。

わからぬまま、ゼルは核心に切り込んだ。


「……何も悔やんでねェよな?」


聞きたかったのだ。

ずっと、聞きたかった。

胸の中で痞(ツカ)えていた疑問。

全てを昇華し極楽へ旅立ったのか、それだけが気にかかっていた。


ロウはにっこりと笑った。


その唇が何かを紡ごうと開かれる。


その時……――。


夢は霧散した。




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