雨の闖入者 The Best BondS-2
「……夜、ちゃんと寝れてんの?」
「おう、爆睡してンよ」
「だよね……」
ゼルの大きな鼾は、ジストを隔てたエナの部屋まで微かに届く。
ゼルが眠れていることは知っていた。
なのに、これ程迄に眠りを欲しているゼルは憔悴すらしていないものの、やはり異常としか呼べない。
(ゼルも、捕まった……)
そういうことなのだろう。
ジストの場合は精神破壊、ゼルは昏睡状態になるんだろう、とエナは何処か冷静に判断を下した。
だがもうそれを心配する必要も無い。
直にこの問題は幕を閉じる。
自らの裏切りによって。
『ある物を、盗んできていただきたいのです』
昨夜、男はエナの耳元でそう囁いた。
『事が成った暁には、約束通り貴女の求める鍵を教えて差し上げましょう』
甘い誘惑に頷いた。
それを知る為なら、何を捨てても構わないとそう思った。
だがそれでも。
(何、迷ってんだろ……)
目の前に居るジストが。
信じてやると言ってくれたゼルが。
蔑みの目を自身に向けるのかと思うと心臓が所在無さげに縮みあがる。
けれどもう決めたことだ。
「ゼル、今日はもういいから、あんたは寝てなよ」
名前を呼ばれて起きたゼルは何とか返事を返して席を立った。
「わりぃな……つか、もう食えそーにねェし、部屋戻るわ」
ふらふらとした足取りでゼルは扉の外へと姿を消した。
あの様子では、無事に部屋へ辿り着けるかどうか甚だ怪しい。
「ジストも。寝た方がいいよ、あんた寝てないんでしょ?」
ジストは答えなかった。
ただじっと一点を見つめるジストはまるで石膏で作られた彫刻のようだった。
哀愁さえ漂わすその容姿は身の毛がよだつ程に美しいが、同時に儚く危うい。
「嫌な夢見たら、あたし、思い出して。夢の中まで助けに行くから」
気休めの言葉を告げてエナも立ち上がる。
ゼルが途中で倒れていないかどうかを確認しに行く為だ。
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「おう、爆睡してンよ」
「だよね……」
ゼルの大きな鼾は、ジストを隔てたエナの部屋まで微かに届く。
ゼルが眠れていることは知っていた。
なのに、これ程迄に眠りを欲しているゼルは憔悴すらしていないものの、やはり異常としか呼べない。
(ゼルも、捕まった……)
そういうことなのだろう。
ジストの場合は精神破壊、ゼルは昏睡状態になるんだろう、とエナは何処か冷静に判断を下した。
だがもうそれを心配する必要も無い。
直にこの問題は幕を閉じる。
自らの裏切りによって。
『ある物を、盗んできていただきたいのです』
昨夜、男はエナの耳元でそう囁いた。
『事が成った暁には、約束通り貴女の求める鍵を教えて差し上げましょう』
甘い誘惑に頷いた。
それを知る為なら、何を捨てても構わないとそう思った。
だがそれでも。
(何、迷ってんだろ……)
目の前に居るジストが。
信じてやると言ってくれたゼルが。
蔑みの目を自身に向けるのかと思うと心臓が所在無さげに縮みあがる。
けれどもう決めたことだ。
「ゼル、今日はもういいから、あんたは寝てなよ」
名前を呼ばれて起きたゼルは何とか返事を返して席を立った。
「わりぃな……つか、もう食えそーにねェし、部屋戻るわ」
ふらふらとした足取りでゼルは扉の外へと姿を消した。
あの様子では、無事に部屋へ辿り着けるかどうか甚だ怪しい。
「ジストも。寝た方がいいよ、あんた寝てないんでしょ?」
ジストは答えなかった。
ただじっと一点を見つめるジストはまるで石膏で作られた彫刻のようだった。
哀愁さえ漂わすその容姿は身の毛がよだつ程に美しいが、同時に儚く危うい。
「嫌な夢見たら、あたし、思い出して。夢の中まで助けに行くから」
気休めの言葉を告げてエナも立ち上がる。
ゼルが途中で倒れていないかどうかを確認しに行く為だ。
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