雨の闖入者 The Best BondS-2
ジストを一人残して食堂を後にすると、部屋に戻る途中、廊下でイェンとすれ違った。
「エナさん、どうですか調査の方は」
にっこりと笑顔で話しかけられ、エナはあることに気付いた。
「顔色、いいね」
イェンの顔は赤身が差し、隈もなくいきいきとしている。
二日前とはえらい違いだ。
「お陰様で、あなた方が来てくださってからだいぶ夢見がましになりまして。悪夢は悪夢ですが、以前とは雲泥の差です」
別段、エナ自身まだ何かをしたわけではないので、こうもきらきらとした笑顔で言われてしまうと身の置き所に困ってしまう。
相変わらず散らかったままの頭髪は、悪夢による堕落ではなく、彼本来の性質に依るものだったらしい。
「それで、どうですか、何かわかりましたか?」
実のところ詳しい情報は何も掴めていない。
だが情報などなくとも、直に雨は止むのだ。
だからエナはその言葉に頷く。
「うん。ま、ね。まだはっきりと言えないけど」
曖昧に濁したエナにイェンは一度眉を動かしたが、すぐにわざとらしい位の笑顔を見せた。
「そうですか! いえね、どうやら、他の家も悪夢から解放されているらしく……もしかしたらこの問題は既に解決を見たのではないか、と」
今度はエナの眉が動く番だった。
悪夢が無くなればただの雨。
法外な報酬を要求した自分達よりも、また別の機関へと調査を依頼した方が得策と読んだのであろうか。
言葉に含まれる探りの色がエナにイェンの真意を伝えた。
つまり、この男は自分達を追い出そうとしているのだ。