雨の闖入者 The Best BondS-2
  *


ランプの光だけが闇に逆らいエナの姿を浮かばせていた。

与えられた自室で彼女は静かに髪をかきあげて溜め息のような深呼吸を一つ吐き、エナは傍らに佇み自身を見上げるラファエルへと頼りない笑みを送る。


ラファエルは円(ツブ)らな瞳に懸念を湛えて「にゃあ」と鳴き、足元に擦り寄った。


「短かった、ね」


吐息に乗せて呟く彼女の脳裏には、三人で過ごした日々。

三人の馬鹿馬鹿しい漫才が好きだった。

馬鹿馬鹿しいからこそ、大切だった。

振り向けば、彼らはいつも其処に居る。

そんな光景が当たり前になるには充分な時を過ごした。


「も少し、一緒に居たかったな」


ようやく、何かを掴みかけていた。

ようやく、彼らとの間に何かが生まれそうだったというのに。

まさか、自分から手を離すことになるとは。


「結局、いつも……」


本当に大切なものは何一つ、この手には残らない。

壊すのは、自分自身。

理由もわかってはいる。

創り出したもの全ての土台が、藁で出来ているからだ。

その上にいくら砂の楼閣を作ったところで流れていくだけ。

壊れることこそが必然。


二人に抱いていた絆がそれまでと言われればそれまでかもしれない。

だが、どうしても捨てることの出来ない目的がある。

どうしても除去できない藁の土台が其処にはあるのだ。


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