雨の闖入者 The Best BondS-2
エナは華奢な手で胃のあたりを押さえた。

自分への嫌悪感で胃のあたりが気持ち悪い。

二人への罪悪感で心臓が潰れてしまいそうだ。


(自業自得、か)


エナは床に纏めてあった荷物に手を伸ばす。

限りなく無いに近いエナの谷間あたりで虹色の水晶が鎖を滑る。

それが視界に入ってエナは前かがみになった状態のまま、しばし動きを止めた。

小屋の男に取って来いと言われた『ある物』。

それは、ジストの首にかかっている紅の水晶。

彼がそれを大事にしているのはわかっていた。

憎しみの象徴だと彼は以前言っていたが、それでもあのちゃらんぽらんな男が執着を見せる唯一の物だから、やはり大切なのだろう。

何故あの小屋の男がそんなものを欲しがるのかは理解出来なかったが、あの男の雰囲気にジストが水晶に向けるのと同じような執着を感じ取った。


(……そういえば……)


ふと、過去の記憶が掘り起こされる。


(ジスト……あたしの水晶にも興味、持ってた……?)


以前、彼が毒を盛られて瀕死の状態になったエナの首に自らの水晶を掛けて言ったことがあった。


『エナちゃんの水晶のコト聞かせてね』と。


エナは自身の水晶を手のひらでそっと包んだ。

その水晶を握るといつも清々しい気分になれた。

風が体の中に溜まった悪い空気を浄化してくれるような、そんな気分になれた。

母親の形見で、お守りで、どんな時でも自分が自分らしく居る為の糧だった。

それ以上でも以下でもないこの水晶にも何か秘密があるのだろうか。

あの後、ジストが水晶のことを聞いてくることが無かったからすっかり失念していたが、考えてみればジストが最初に仕事の依頼を受けたのもこの水晶を見た時だったような気がする。


(ただのお守りだと思ってたケド……何か他に……)


水晶には重大な秘密が隠されているのかもしれない。

だとしたら、それを奪い他の者の手に委ねることは……もしかしたら恐ろしく危険な行為なのではないだろうか。






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