雨の闖入者 The Best BondS-2
ゼルと同じだ。


夢に誘われ、抗いきれずに堕ちていく。

ただ、ジストが日中眠ろうとしなかったのは、それが悪夢であったから。

一度寝入ってしまうと、深く暗い夢が絡みついて離れない。


(夢に取り憑かれるって……こゆコト……?)


この港町ユーノに起こったことの、まさに縮図だ。

どうりでこの町に訪れた時、何処の店も開いておらず、どの門扉も固く閉ざされていたわけだ。

ジストは起きない。

それが確信へと変わったエナは足音を気にせずにジストの傍へと歩み寄る。

ようやく暗闇に慣れはじめたエナの目にはジストの表情をくっきりと捉えることができた。


……苦悶の表情。


汗が髪を額に張り付かせ、眉根を寄せて、歯を食いしばっている。

寝息も決して規則正しいものとはいえず、荒々しい息が時々歯の隙間から不規則に洩れる。

何の夢を見ているのか気になった。

そして今すぐ起こしたい衝動に駆られた。

普段飄々(ヒョウヒョウ)としている彼だけに、こんな表情を見るのはいたたまれない。

エナは、じっとその顔を見つめた。

美しい容貌はこんな苦悶を貼りつけていても尚美しい。

寧ろ、妖艶にさえ見える。


だが、見たくない。

見たくなかった。


水晶さえ手に入れれば全てが終わる。

雨も止むし、こんな悪夢からも解放される。

彼らは安らかな眠りを享受することが出来るのだ。

全てを終わらせることが出来る唯一の方法。


それらが全て自己弁護でしかないことをエナは知っていたのだけれど。

そうとでも思わなければ意志が鈍ってしまいそうだったのだ。


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