雨の闖入者 The Best BondS-2
少年は思った。
(ああ、そうだ、僕は死んだんだ)
その意識はもはやどこか遠くからこの光景を見ていた。
この空間、否、時軸さえ隔てた場所から見下ろしていた。
(確か、散々こねくり回された後、心臓を一突きにされたんだ)
死因はなんだったろうか。
出血多量か、ショック死か。
どの道、心臓を貫かれて生きていられるわけがなかった。
(開放、されたんだ)
意識だけの少年は安堵した。
恐怖も憎悪も生きる理由も必要ない世界に旅立つのならば、眼下で繰り広げられている光景も無意味なもので。
(死んだんだ……)
そこに小さな違和感と、生にしがみついていただけに多少なりとも残念に思う気持ちはあったけれど、それは確かに安らぎ以外の何物でもなくて。
虚空に溶けていく感覚そのままに身を委ねようとした、その時。
――そうだったか?――
不意に、誰かが問う。
――本当にそうだったか?――
薄れゆく意識の中で低く問いかける、誰か。
その声が少年を引きとめた。
――この時、此処までの仕打ちを受けたか?――
誰? と少年の意識が問う。
だが何処からか響く声はその問いには答えない。
――此処で、死んでしまったのか?――
そんなこと、見ればわかるじゃないか。
少年の思惟に声が重なる。
――なら、お前は何だ――
考えろ、と言わんばかりの響きに意識だけの少年は頭を捻った。
僕? ぼく、は……。
答えは、出てこない。
――ならば、俺は何だ――
問いではなかった。
さりとて、答えを求めぬものでもなく。
ただ、知っているだろう、と促すような言葉。