雨の闖入者 The Best BondS-2
――思い出せ。お前は、本当に、此処で、死んだのか?――


先ほど死んだと思った時の違和感を思い出す。

その違和感を手繰り寄せ、低い声と照らし合わせる。


何かが違うのか。


少年は必死に考えた。


けれど、わからない。


何かが違う?


何が違う?


何もかも違うのか?


それを見極めて何か意味があるというのか。

黄泉へと旅発つ、この自分に。

ようやく手に入れた安寧の時を享受することよりも大切なことだというのか。


全ての答えはもう、霧の彼方。

今更手を伸ばしても意味が無い。

だからもういいのだ、と全てを諦め、今度こそ静かなる永遠に揺蕩(タユタ)おうと意識を閉じかけた刹那。


『逃げて、どうなるの?』


誰かの声が脳裏に響いた。

猛烈に意識引きずられる高い声の主。

聞いたことがある、この声、この言葉。

強い意志を湛えた色違いの双眸がちかちか浮かび上がり、眠りを妨げようとする。

少年のものとも先ほどの青年のものとも判別つき難い意識がその声の持ち主の姿を探す。


『大切な人ほど……目の前から居なくなる』


深くて大きな哀しみを抱えた目が、声が訴えかけてくる。

その声に宿る悲痛な叫びが今でもこんなに心を締め付けるというのに。


誰だ。お前は誰だ。


気になって仕方がなかった。

その答えが欲しいと思った。


――お前は誰で、俺は……――


生まれた疑念にこの上なく忠実に自身に問う。


――俺は…………誰だ?――


この声を知っているのだ。


この声を聞いた自分を知っているのだ。


この声に答えた自身が確かに居たのだ。




『俺は死なないよ? エナちゃんよりも先になんて絶対逝かない』



その瞬間、目の前で紅の閃光が破裂した……――。






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