雨の闖入者 The Best BondS-2
     *


「な、に……?」


何が起きたのか理解するまで少しの時間を必要とした。


水晶が光ってジストが目を覚ましたという現状把握くらいで、理解というには程遠い内容でしかなかったが。


光りがおさまった頃、紅の双眸がゆっくりと開かれ、普段からは想像も出来ないような柔らかな笑みで目を細めた。


エナが初めて見た無防備な彼の姿だった。


「……ああ、やはりお前が……」


ジストの大きな手がエナの頬に伸ばされる。


嘘偽りの無い瞳に見つめられ、エナは動くことが出来ずにその優しい手を受け入れる。


「ジスト……?」


今まで見たことも無い類の瞳に触れ、エナは少し戸惑う。


当初の目的も忘れてしまう程に、その眼差しは優しかった。


「お前が俺の命を望むのか……」


口の中で確かめるような呟き。


安堵したような、その表情。



「なんの話……?」



首を傾げて問うが、彼は笑みを深くするだけ。


「……いいんだ。いいんだよ。お前は何も知らなくて」


魅力的な笑みに不覚にも目を奪われた時。


ラフが足元で小さく唸った。


「いっ……!」


沿えられたままの手がすっと下がり、あまり主張していない胸を揉んだ。


頭に血が上るのと、手が出るのはほぼ同時だった。


「もっかい寝ろ!エロ魔神!!」


咄嗟に拳を振り下ろす。


頭にしっかりと拳を受けたジストはようやく意識が覚醒したのか、跳び起きて頭を両手で抑えて呻いた後に、いつもの自信に満ち溢れた――エナから見ればうそ臭いと形容する――笑みを浮かべた。


「その反応。夢じゃねえな」


くつくつと喉を鳴らすジストに青筋を立てたエナが怒鳴る。


「悪趣味な確認すんな!」


< 94 / 156 >

この作品をシェア

pagetop