雨の闖入者 The Best BondS-2
ラフの尻尾を掴んだまま、ゆらりとベッドから離れるジストに本能的な恐怖感と安心感を覚え、目を離すことが出来なかった。


彼の目に宿るのは激しい執着と、叱咤。


そこには侮蔑も絶望も存在していなかった。


そのことに安堵する。


まだ見捨てられていない。


まだ、嫌われていない。


まあ、時間の問題だけれど。



「返せない。……返せないよ……」



本当は全てさらけ出して赦しを請いたい。

事情を説明して、助け出して欲しい。

裏切りたいわけじゃないのだと、わかってほしい。


「じゃあ、コイツがどうなってもいいってワケ?」


ジストはベッドサイドに置いていた銃を手に取った。


「契約はご破算ってコトだよね? ってーことはーぁ、殺さずを守る必要もなくなるわけだ?」


安全レバーを外す音が雨の音に紛れ込む。


「!! 駄目っ!」


ジストが喉を鳴らす。

くつくつと、さして面白くもないだろうに皮肉げに哂う。


「だーよねぇ。優しーいエナちゃんは見殺しにするだなんて出来ないもんねーえ?たかが犬コロでも」

ラフがジストの手の中でばたばたと身を捩る。


「ラフ……離して。銃なら、あたしに向ければいい」

「嫌だね」

ふん、と鼻で笑う男は即答して、人の悪い笑顔を浮かべた。


「どれだけ一緒に居ると思ってんのさ? エナちゃんの性格くらい理解しているつもりだよ?」


緊迫した空気がピンと張り詰めている。

「エナちゃんは、自分のせいで何かが犠牲になることを嫌うデショ? だから、こうするのが正解」


そう告げて、更に強くラフの体に銃口を押し付ける。

エナは歯軋りをして相手を睨みつけた。


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