雨の闖入者 The Best BondS-2
「ジス……」

「言ったろう? お前の性格はわかってる。理由があるならそう言え。でなきゃ、俺は助けてやれないだろうが」


自分を甘やかす言葉をいとも簡単に吐く男の胸の温もりが、エナの心から決心を奪いそうになる。


「………助けてなんて、言ってない」


やっとの思いで口にした強がりを封じ込めるかのように、彼の手には更に力が入る。


「あまり俺をみくびるんじゃない。お前が望むなら何だって与えてやる。それが欲しいならくれてやっても構わない。」


だがな、と男はエナの髪に口付けを落とす。


「理由も言わずに背を向ける。そしてどうせ一人で突っ走るんだろう? それをわかっていて行かせるような寛容な男じゃねえぞ、俺は」


寛容な男じゃないと言いながら、その懐はどこまでも深くて広い。


ずるい。

なんてずるい男だろう。

心の鎧を外す術を心得ている。


薄情なくせに。

本音なんて晒さないくせに。

本音を晒させるのがこんなに上手いなんて、ずるすぎる。


気を抜けば涙が零れてきてしまいそうで、彼の胸にしがみついた。


「……馬鹿じゃないの?」


「馬鹿でいいんだよ。女の為に馬鹿になれない男なんて、それこそ馬鹿だろう?」


「……意味わかんない」


「わかる必要なんてないさ。護らせてくれりゃそれでいい」


その言葉に心が揺れる。

護られているだけなら、どんなに楽だろう。

根性も勇気も覚悟も何も必要としなくていい。

それはきっと春の陽だまりの中で居眠りをするように気持ち良いだろう。


けれど、それでは望むものは何一つ手に入れられない。


欲しい未来は手に入らない。


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