アイツに勝ちたい!!課題作品4
四章『決意の日』
病院から戻った次の日からも原角君…いや、僕の中の"アイツ"は話しかけてきた。

"アイツ"の態度は急変した。まるで僕を見下すように…

『なぁ、お前じゃ誰の期待にも答えられない。だから俺がいるんだ、俺と代われ!そうすれば皆幸せだ』

そんな言葉に心が揺れる…気付けば僕は"アイツ"と屋上に来ていた。


眼下には一心不乱に走る陸上部の生徒達がいた…

ふいに屋上へ通じる扉が音もなく開く…彩だった

「ねぇ、建ちゃん…建ちゃんの前には理想の自分っていう壁があるんだね」

「うん…僕が"アイツ"に勝たなきゃ消えないって」

「私も…手伝えないかな?少しでも…」


そんな言葉に思わず泣いてしまいそうだった。

彩と二人並んでグラウンドを眺める…



陸上部は今も走っている

刹那、いつかの体育で"アイツ"が僕の前を走っていたのを思い出した。

(あの人達も記録を伸ばすため、毎日『自分』と戦ってる…)

目を閉じて"アイツ"とのレースに勝つ想像をしてみる…すると心の中に燃える小さな炎があるのに気付いた。

「勝てるかもしれない…」

"アイツ"の背中を…追い越す。
僕は生まれて初めて勇気を出した。

彩と一緒に陸上部の顧問の所へ行き、そのまま入部させてもらった。
彩はマネージャーとして僕を支えてくれる。

自信はなかった…けれど"アイツ"を追い越せば僕は変われる、そんな確信があったんだ。



僕が選んだ種目は5000m走…"アイツ"を追い越すにはこれくらい必要な気がしたから。

雨の日も、雪の日も僕は走り続けた。

"アイツ"はその間も現れ、僕の前を嘲笑うかの様に走り去る。

それを見て弱気になる僕を彩はいつも励ましてくれた。

少しずつ練習を重ね、他の部員ほどではないけれど僕は力をつけていった。

走る…走る…
渇いたグラウンドに砂煙を上げながら…
雨の街角に水しぶきを上げながら…
朝焼けの通学路、夕日に染まるグラウンド、夜霧の河川敷…
全てが僕の練習場だった。


そうして幾月も過ぎ…いつの間にか蝉の声が響き渡る季節になっていた。

陸上競技大会…僕はそこで"アイツ" と戦う、そう決めた
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