線香花火【短編】
不倫
今日も、彼の後ろ姿を見てる。
「帰っちゃうの?」
身支度する彼を知りながらも、少し甘い声で聞いてみた。
「ん?そろそろな」
彼は気の無い返事をしながら、相変わらず身支度を整えていた。
サラサラの髪からはシャンプーの香りがする。
私は、この時間が嫌い。
吐き気がする位
嫌い。
じっと彼を見つめながら、心では念力を送る。
『帰るな…』
って。
普通に見たら怖いよね。
私は後ろから抱きつくと、彼のつけている香水の香り鼻をくすぐった。
彼のニオイ。
どこにいたって分かる自信があるよ。
こんな生活にも、もう慣れた。
彼の前では泣かない、そう決めてるの。
強がりかもしれないけど、彼が悲しむから。
嫌われたくないから……
だから、彼の前では泣かない。