【中編】ベストフレンド
拓巳に知られるわけにはいかない。
拓巳が知ったらきっと結婚しようと言うんじゃないかしら。
例え私に愛情が無くても、きっと子どもの為にそう言うと思う。
そんなのはイヤだ。
拓巳の人生を狂わせるなんてイヤだ。
子どもの為に結婚するなんて言われるのは絶対にイヤだ。
オーナーは私の入院の事をきっと誰かに知らせるだろう。
身分証明になるものは持っていない。
だけど携帯を調べれば実家の電話番号くらいすぐに判るだろう。
実家に電話をするのならまだいい。
電源を切る事で拓巳からの連絡を断っていた私の携帯は、多分電源を入れると同時に拓巳からのメールが山のように届くだろう。
それを見たらオーナーは先ず拓巳に連絡を取るんじゃないだろうか。
発着信の履歴が一番多くて、しかも電源を入れると何通もメールが届く男なんて…普通は誰もが恋人だと思うわよね。
オーナーがもし、拓巳に連絡を取っていたら、彼は間違いなく迎えに来ると思う。
ダメ、会えないよ。
拓巳に会ったらこの気持ちが溢れて止まらなくなる。
想いを告げてその腕に飛び込みたくなる。
ここを出なくちゃいけない。
拓巳が追ってくるその前に…。