【中編】ベストフレンド
私は腕の点滴を外すと、静かに着替えてそっと病院を抜け出した。
青白い光につつまれる街は、僅かに風が冷たくて、一瞬ぶるっと寒気が走った。
自分を抱きしめるようにして、立ち止まる。
もうペンションにも戻れない。
そっとおなかに手を当てて、赤ちゃんに相談する。
何処へ行こうか、この子と一緒に…。
病院に背をむけ、ペンションとは逆の方向へと向かおうとしたときだった。
「待てよ亜里沙!」
忘れようとしても決して忘れる事の出来ない声が聞こえた。
夢かもしれないと思った。
振り返るときっと誰もいなくて、ただの空耳だったと苦笑するだけだと思った。
だけど…
恐る恐る振り返ったその先には、確かに誰よりも愛しい人が立っていた。
「た…くみ?」
身体が…動かなかった。