【中編】ベストフレンド
思いがけない名前に一瞬言葉が出なかった。
俺と亜里沙は多分同じ事を考えていたんだと思う。
陽歌はそれでいいんだろうか。
自分の中に眠っている自分の夫が愛したもう一人の女性の名前を、漢字は違うとはいえ自分たちの娘の名前にするなんて。
「晃さんがそう決めたのか?」
「ううん、私よ。晃さんは驚いたみたいだったけど、反対はしなかったわ」
「陽歌はそれでいいの?」
「茜さんは今も私たちみんなの幸せを願ってくれている。
それを私はとても感じるの。
時々語りかけられるように吹く風の中や、抱きしめられるように感じる陽射しの中にね。彼女は私の中に共に生きて共に幸せを感じてくれている。
だけどね、本当はもっともっと生きて幸せになるべき人だったの」
「陽歌…」
「この子は私と晃さんと茜さんの三人の子どもなのよ。
だからね、茜さんの分も生きて幸せになってもらいたいって思うの。
とても心の強い、優しい女性だった茜さんの素晴らしさを受け継いでね」
陽歌は迷いを微塵にも見せない綺麗な笑顔で俺達に微笑んだ。