【中編】ベストフレンド

「これ、マルガリータね」

「そう、このカクテルを作ったバーテンダーの恋人の名前だったって、知ってた?」

「恋人の? ううん、知らない」

「有名な話なんだぜ。
狩猟場で流れ弾にあたって亡くなった恋人を偲んで作ったカクテルだそうだ」

「……悲しい話ね。
このカクテルにはそのバーテンダーの恋人への想いが込められているのね」

暫くカクテルを見つめていた拓巳は、どこか遠い瞳で溜息を吐き、グラスをひと息で煽った。

まるでバーテンダーと自分を重ねているような姿が痛々しくて、私は黙ってグラスに口をつけた。

グラスの塩がテキーラと混ざり合い、ライムの香りを纏って喉を焼きながら滑り落ちていく。

恋の香りと涙の味。

悲恋に終わった恋のカクテルが拓巳の気持ちそのもののようで苦しかった。



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