狼少年
プロローグ
たまたま、本当に偶然だったんだ。

先生に頼まれた課題プリントを研究室に届けるべく、私は校舎と校舎を繋ぐ3階の渡り廊下を歩いていた。

季節は初春。力強い春風が私の持つプリントの山を掠め取るのは正に一瞬で。


「あー……、」


慌てて地上へと飛ばされかけたプリントの1枚を捕まえる。多少皺になったが、わざわざ下まで降りて上履きを履き替えて拾いに行く手間を考えれば致し方ない犠牲だ。
ふと、人影が目についた。

…一組の男女が、裏庭でキスをしていた。

女のほうが一方的に男の頭を両手で挟むようにして引き寄せ、熱烈なキスをしている。

…こんな所から見えるくらいだから、ほかにも目撃者は居るんだろうに、お盛んなことで。
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