狼少年
「佑香、おまたせ。」
佑香を待たせていた私は、玄関で携帯をいじる佑香に声をかけた。彼女とはクラスが違うから、掃除やホームルームなんかのちょっと帰る時間を合わせるためにこうして玄関で待ち合わせをするのだ。私の姿を見つけた佑香は、携帯を閉じて笑った。
「おそいー。」
「ごめんごめん、先生に足止めくらって。」
「そっかあ。さっきあやこのクラスの人が即効出てきて即効先輩に連れて行かれてるのを見たよ。」
誰だろ?
「どんな人?あ、男子はほとんど覚えてないけど。」
「苦手だもんね。でも男だった。」
佑香は楽しそうに笑う。私のちょっとした事情を知っている数少ない友達の一人だから、彼女と話すときは気楽でいい。
「んーとね、髪が襟足だけ長くて黒くて猫背の人。」
「そんな奴…」
あ。いたっけって続けそうになったけど、ひとり該当者が出てきた。
「席となりの男子がそんなかも。」
「じゃぁその人かな?先輩に腕絡められてたわー。」
「ふーん…。」
なんか意外だ。
「ま、帰ろっか。」
佑香は鞄を肩にかけて、時間を確認した。