狼少年

桂は目をぱちくりさせて、顔をしかめた。

「お前、礼も言えねえの?」

「あ、…ありがとう。」

不本意だけど、一応言われた通り頭をさげた。ふぅ、とため息をついて、桂は車両と車両を繋ぐドアにもたれかかる。

「さっきの駅で乗ってたんだよ。お前気づかなかったんだろうけど、前通った。」

「へぇ…。」

全く気づかなかった。

「したらお前顔色悪いし、場所も人多いとこ乗ってるしで移動させてやったんだよ。」

「そっか。まぁ助かったよ。」

桂は私と1メートルほど離れた場所からこちらをじっと見ている。

「もう大丈夫だから。」

何?

視線だけでそうたずねた。

「おまえ、人ごみ駄目な奴?」

「…。」
< 19 / 52 >

この作品をシェア

pagetop