狼少年
桂は目をぱちくりさせて、顔をしかめた。
「お前、礼も言えねえの?」
「あ、…ありがとう。」
不本意だけど、一応言われた通り頭をさげた。ふぅ、とため息をついて、桂は車両と車両を繋ぐドアにもたれかかる。
「さっきの駅で乗ってたんだよ。お前気づかなかったんだろうけど、前通った。」
「へぇ…。」
全く気づかなかった。
「したらお前顔色悪いし、場所も人多いとこ乗ってるしで移動させてやったんだよ。」
「そっか。まぁ助かったよ。」
桂は私と1メートルほど離れた場所からこちらをじっと見ている。
「もう大丈夫だから。」
何?
視線だけでそうたずねた。
「おまえ、人ごみ駄目な奴?」
「…。」