狼少年
(コンタクト、何処に忘れたかな…。)

そう、コンタクトレンズが今朝から行方知れずになっていたこと。

ハードタイプだから落としやすいので、意識半分の朝の時間、一応つけたものの落としたのかもしれないし、もしかしたらケースごと鞄に紛れ込んでいるのかもしれない。

日常生活には少しだけ差し支えはあるものの、なければ見えない程視力は悪くない。ただ、コンタクトの有無で黒板の見える見えないが決まる。これは少々自分の中では大きな問題。


「あやこー」


聞き慣れた声がした。
振り返るとそこにはクラスメートの麻由の姿があった。


「それ届けて戻ったら一緒に購買行こっ」

「おっけー」


笑顔で短いやり取りを交わす。
麻由は私の肩を一度叩いてそのままトイレへ消えてった。

私の脳内はもう購買へ行くそのことで、先程のキスシーンを忘却の彼方へと追いやっていた。
< 3 / 52 >

この作品をシェア

pagetop