狼少年
「あやこ、10番2つ書いてる」
横で手伝ってくれてる麻由が指摘した。
「って、あんたが書き足したんじゃん」
「細かいこと気にすんなって。」
楽しそうに笑う麻由に怒る気も失せる。幸い、シャーペンで番号書いてたから消しゴムを使えばいいし。筆箱を探り、目当ての物を取り出して。
「あ。」
指から転がしてしまった。結構遠くまで旅する消しゴムは、誰かの上履きに当たり、回転しながら静止した。上履きの主が消しゴムを拾いあげて軌跡を目で追う。
「桂、それこの子の。」
麻由がそいつに呼び掛ける。黒髪に学ラン、黒縁眼鏡。真っ黒くろすけだ。こんな奴クラスに居たんだ?男子とはほぼ関わろうとしないから全然顔も名前も知らなかった。桂(って名前らしい男子)は私たちのところへだるそうに寄ってきた。猫背だな。
「ん。」
「…どーも。」
机にポトリと落とされた消しゴム。
でもあたしはほかのことに気を取られていて、生返事しか返せなかった。
でかい。そして無愛想。
それから、………。