ナイツ。
そこにいたのは、顔を真っ赤にした男子だった。
廊下に1番近い席にいるあたしと彼は、壁一枚隔てて見つめあうこととなった。
えーと。このヒト、だれだっけ……?
どこかで見たことがあるような気がしないでもなかったけど、真っ黒な髪とメガネ、その程度の特徴では、あたしの記憶のセンサーにひっかからなかった。
少し考えるあたしに構わず、彼は腕を伸ばし、搾り出すような声でつぶやいた。
「良かったら……連絡ください」
彼はあたしに紙切れを渡す。
それををあたしが受け取ったのを確認すると、彼は廊下の奥へと消えていった。
「ひゃー。相変わらずモテますね~」
まひるは笑うと、楽しげな口調でからかうようなことを言った。
「どうするの?」
「どうするって……どうもしないよ」
あたしはそう言うと、紙をまるめようとした。
「あっダメだよ、麗愛! 一応個人情報なんだから、捨てるにしても家で捨ててあげな!」
まひるはおおげさにかぶりをふった。
まったく。まひるは本当に人がいいと言うか、世話やきと言うか……。
下手にさからうとメンドくさいので、あたしは紙をペンケースに押し込んだ。
「あーあ。彼、決死の覚悟だったろうに」
まひるは、あたしが恋愛にさめているのがお気に召さないらしい。
男子の恋愛感情を流すたびに、こういった反応をされてしまう。
だけど。
あたしには。恋愛をする資格なんてないのだ……。
あたしは、汚れているから。
その汚れは、落ちないから。
ずっと、ずっと――。
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