君の紅が好き
艶の日常
ここは徳川家三代将軍家光様の御膳をつくる台所。
今日もたくさんの女達が御膳の準備をしている。

『今日の御膳はお魚の煮付けと玄米を主に。それから―…。』

『あの…家光様は只今胃腸の様子が好ましくないとお伺いいたしましたが…。
玄米は消化なよろしくないかと…。』

辺りがざわめく。
家光様の健康情報は門外不出。
たとえ御膳の準備の場でも料理長(華代カヨ)ただ一人にしかしらされることはない。
まして下級の艶がそんなことを知っているのは、おこがましいことなのである。

『あッ。』

慌てて口を押さえる艶。
だが時すでに遅し。

『艶さん。あとで私のところへきていただけますね。』

華代が低い声で言った。

『・・・はい。』

結局その日の御膳は玄米であった。

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