ガラス越しの恋

自分の気持ちにも分からずに

おかしい。

花蓮のケータイに何度かけても通じない。

あいつまたマナーモードのままにしてんのか?


折角ケータイを持たせても、通じるのはごく僅かな回数だけだ。


「畜生。あいつ、ちゃんと家に帰ってれば良いけど」


いつもルーズなくせに、約束には敏感な奴で、意固地のようになって守ろうとする。

時計はもう8時を過ぎている。

雪も降っているのに、あそこにいたら手が悴んでしまう。

どうしてオレは、あそこに行かなかったんだろう。


「光臣くん、大丈夫?お友達に連絡ついたの?」

「いや。多分大丈夫だよ」

「ごめんね。無理言ってしまって」


大丈夫。あいつは絵のためならオレすら袖にした女だ。

最初のデート美術館に行った。あいつは美術部だったからあいつに合わせた。そうしたら、一度心を奪われた絵の前に立った途端、動かなくなった。

行こうと言っても聞かなくて、実力行使に出たら、腕を逆に取られてぶん投げられた。

そろって、美術館から追い出されたのは言うまでも無かった。

そういう女だ。花蓮は。

だから、大丈夫。
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