†鑑査委員制度†
「・・・やば!」
俺は時刻を確認し、慌てて本屋から飛び出した。
学校帰りに何気なく寄って、手にとった雑誌を思わず読み込んでいた。
しまった!あぁもう最悪だ!
汗で右頬に張り付つく髪を鬱陶しく払いながら、千里は走った。
そうして急いで帰ってきたものの、いつもと比べると、だいぶ遅い帰宅となった。
汗だくになりながら世話しなく家に駆け込み、そのままリビングへと雪崩れ込む。
「ごめん紗夜!遅れた!」
「おせぇーよ千里」
リビングまで駆け込むと、紗夜は既に仕事着に着替えていてイライラした様子で煙草をふかしていた。
「ごめんて!紗夜の当番の洗濯畳んでおくから!」
「まぁそれは当然として・・・」
当然なのかよ。
俺から言い出した事とはいえ、ちゃっかり押し付けるところは本当調子いいよな、まじで。
「俺はもう行くぞ、吉牛買っといた。冷蔵庫にあるから」
そう言って紗夜は吸っていた煙草を灰皿でもみ消し立ち上がった。
すれ違いざまに甘いジャスミンの香りが鼻を掠めた。
「じゃぁな、しっかり鍵閉めて寝ろよ」
そういつもとお決まりのセリフを残して、紗夜は光沢のブラックスーツを着込んで足早に玄関へ向かった。
ドアの閉まる音が聞こえてから、俺は思い出した事があってあたふたと家を飛び出した。
外へ出ると紗夜の赤のポルシェが今にも発進する様子を確認して、さらに焦る。
「紗夜――!!言い忘れてたけど!明日俺、超遅くなる!」
車の窓ガラスが下り、サングラスをかけた紗夜が顔を覗かせる。
「ばっか!千里てめぇ・・・外で親を源氏名で呼ぶんじゃねぇ!」
そう言って紗夜・・・もとい、親父はキョロキョロと周りを見渡した。
「親父!明日遅い!!」
「何時!?」
「20時回る――!」
紗夜は軽く手を挙げ、早く家に入るよう追い払うようなジェスチャーで示すと、車と共に音を立てて走り去った。
俺は家に引っ込むと、紗夜の残した家の家事をさっそく済ませ、おぼんに今晩の晩飯、牛丼を2つ乗せると2階へと上がった。