†鑑査委員制度†


何だかとんでもない事に巻き込まれたな。そんな事をぼんやりと考えながら、気が抜けたか?足に力が入らない。


気だるそうに瀬川透は階段を降りる。


すると教室を出る直前の柴田先生に言われた一言を、ふと思い出した。


『分かっていると思いますが、今日話した事は他言無用です。そしてこれから関わっていく全ての鑑査委員制度に関する事も然りです』


“君を信じていますよ”


そう言った先生の顔を思い出し、俺を舌打ちした。


「言われ無くとも・・・」


誰が言えるかこんな事。


それに何よりも自分のためにも言わないさ。


玄関を出る直前に、どこからかピアノの音色が聞こえてきた。


思わず目を閉じて、音に耳を傾ける。ゆっくりとした旋律だが音符の数も音階の高低差も高度な曲だ。それをこんなスラスラとこいつ・・・


「うめぇな」


思わず呟いてしまったらしい自分に、顔が一気に強張ったのが自覚できた。


ショパンの別れの曲。


頭が自然とその曲名を導き出した。


俺はそれを掻き消すように鞄からiPodを取り出し、音量を上げてイヤホンを耳にねじ込む。


もうピアノの音なんて聞こえない。
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