†鑑査委員制度†
姫宮ミコトは見知らぬ女子と廊下で立ち話しをしている様子だった。
たぶん親しい友人なのだろう。かなり砕けた間合いに見て取れる。
まぁ姫宮さんにも友だちくらい当然いるだろうけど、でも何よりも俺を驚かせたのはその柔らかな笑顔だ。
未だかつて見たことのない明るい表情で笑いあっている。
思えば俺は彼女の怒った顔や厳しい表情ばかりを見ている気がする。
たまに見せる笑顔も彼女はどこか不適でシニカルだ。そんな印象を持っていた。
へぇー。あんな風な表情も作れるのか。それとも余程気を許した相手だからなのか?
そんな事を勝手に思いながら、視線を姫宮さんから少し後ろを歩く武藤先輩へ向け、声をかけた。
「先輩、中庭でいいですか?」
「外は暑くないか?」
先輩はあまり芳しくない表情を作る。
「でも教室以外で他に食べる場所なんて外しかないですよ」
「僕の部室で食べればいいじゃないか」
そう言って先輩は満面の笑みを俺に向けた。
この嘘みたいに美しい人間が笑みを見せた事はなかなか破壊的な影響があったようで・・・
たまたま通りすがった女子が小さく悲鳴をあげた。
また少し俺たちの周りが騒然とし出す。
だからぁ・・・なぜいちいち狼狽える?
あんたもこれ以上悪目立ちしてくれるな!
「あぁはい。じゃそうしましょう!」
俺はこの妙に高揚しきった場所から一刻も早く立ち去りたくて、足を速めた。
再び目線を前方に戻すと、遠い場所から姫宮さんと目が合った。
まぁ何しろこの喧騒だ。姫宮ミコトはその大きな目を見開き呆然とした様子で俺と、そして武藤先輩を交互に眺めていた。
『どうゆうこと?』
咄嗟に眉間にシワを寄せ、詰め寄る姫宮ミコトを想像する。
俺はそんな自分の想像に嫌気がさし、急いで手前の踊り場で曲がり彼女の視線から逃れた。
そして自分がミスを犯したと気がついたのは、間抜けな事に武藤先輩の部室前だった。