†鑑査委員制度†
なぜ俺は瑞々ここへ来てしまったのだろう。先輩の目論見は手に取るように分かる。
この人は俺がもう1度演奏する事を望んでいるんだ。
あの笑みの裏には今思えば打算と期待がきっとあった。
それが分かっていたんだが・・・部屋の前で入室を渋る俺をよそに、武藤先輩は全く取り合わず俺を無理やり部屋へ押し込んだ。
その強引さにむっとして先輩に噛みつくが「今からどこかへ移動したら昼休みが終わるだろう?」との答えが返ってきて
その返事に時刻を確認したが、確かに道理であった。もう休み時間が15分あるかないかだからだ。
まぁこれだけの時間なら食べてすぐ戻る有余しかないし、間違ってもピアノを弾かされる展開にはならないだろうから一応は納得する。
食事中にたぶんされるだろう勧誘の話しもこの際は目をつぶる事にした。
部屋の中央に置かれたグランドピアノ。教室の端に寄せられている幾つかの机と椅子。
武藤先輩はその机と椅子の山から2脚の椅子を選び、窓際に持ってきた。
窓際の壁一面には、窓下の額に沿って面長の台が付けられているのだ。どうやらそこを机と見立てて食事をとるつもりらしい。