†鑑査委員制度†


時間もないので俺たちは早速食べ始めた。


食べ始めて少しもしないうちに武藤先輩から視線を感じる。てっきり勧誘の話しを開口一番に言われるのだろうと思っていた俺はその視線をわざと無視して食べ続ける。


しかし武藤先輩は特に何を話しかけるでもなく、コンビニで買ったと思われるサンドイッチを淡々と口に運んでいる様子だった。


痺れは俺の方から切らせてしまい、怪訝に思って先輩を窺った。その視線に武藤先輩は了解したと言ったように答える。


「いや、美味しそうな弁当だと思ってね。母親が作ってくれているのか?」


全く予想していなかった質問に目をしばたかせる。思わず返答に詰まるっていると、武藤先輩は独り言のように呟いた。


「本当に美味しそうだ。手が込んでいる。君に対しての作り手の愛情が感じとれるよ。いいお母さんなんだね」


そう言って先輩は俺に笑みを向けた。


俺はというと盛大に苦笑いだ。


いい母か。それはこの弁当に対する事で言うなら違うだろう。だってこれは第一母でなく東城さんが作ったものだし、そもそも家の母親は料理をしない。


そのままこの話しを流しても良かった。実際先輩は半分独り言の類だったようで俺への返答は求めなかったのだから。


しかし何となく無視出来ず、思わず自嘲的な笑みを浮かべながら話していた。


「これは、母が作ったものじゃありません。僕の・・・」


家のお手伝いさん。と言うのはさすがにはばかられて、咄嗟に祖母と嘘をついた。


まぁ年齢上は間違っていない。言い訳めいたセリフをさらに重ねた。


「家の母親は料理しないんですよ。だから祖母が」


「そうか、僕の母親も作らないな。物心つく前に他界してね。だから僕は母親とか家庭の手料理を知らない」



その言葉に驚いて、思わず箸が止まる。


俺は何と返したらよいのか分からず、一度は開きかけた唇を結んだ。
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