†鑑査委員制度†
何度となくかける言葉を浮かべてはみたが、結局は何も言えずじまいだ。
一体先輩にどんな事情があるのか、はたまたなぜ今その事を俺に話したのか、気の毒に思う気持ちと同時に困惑した。
とうとう俺は口が利けなくなった。が、その時ふと、先輩を纏う空気が急に緩む。
「なんてな。嘘だ」
「・・・なっ!?」
殊更明るい声音で言われて度肝を抜かれる。
俺が次に何か言う前に、武藤先輩は悪戯めいた笑みを浮かべ、そして唐突に部活動の勧誘文句を切り出して遮った。
「そろそろ誤魔化すのは止めにしないか?僕はなぜ君にそこまで拒まれるのか分からない」
「・・・ご、誤魔化すも何も。拒むも何も。僕に入部の意思がないからです!」
目を白黒させしつつもキッパリ言い返す。
この武藤先輩との朝からのエンドレスのやり取りに、既に俺は愛想良く対応するという体裁を保てずにいた。
そもそもそれじゃこの人には通じないと判断したんだ。だから先輩への俺の言動も素直なものだ。
ついでに眉を思いっきりしかめて心底迷惑そうに抗議する。
「大体ピアノ部って言ったって、普段どんな活動してるんですか」
「そうか、少しは興味が湧いてきたか。粘って勧誘した甲斐があるな」
「違いますから!ただの疑問です。興味を持っての質問じゃありませんから!」
「ピアノ部とは元々吹奏楽部の括りの一つで・・・」
「僕の話し聞いてました?」
「まぁ待て。説明くらいさせたらどうだ?」
右の眉を跳ねらせ、話しの途中を遮られた事に不満そうに講義した後、そうして相変わらず妖美な笑みを浮かべて先輩は俺に問いかける。
そうされると結局俺が折れるハメになるんだよな・・・全く頭が痛い。この人とはずっとこんな調子だ。
完璧すぎる容貌は時に一種の威圧感と気後れを起こすという事を思い知る。
諦めて話しを促すと、武藤先輩は台の上に片肘をついてその上に頬を乗せた。俺を覗き込む形である。
再び話し始めた。