†鑑査委員制度†
はっ?
連弾のピアノコンクール??
長い間、俺の時が止まる。
ピアノ、コンクール・・・
ゴクリと生唾を飲み込んだ。
「君に僕のプリモになってもらいたい」
武藤先輩に再びどうかと尋ねられるまで、俺はぴくりとも反応出来なかった。
思い出す事があった。
赤いベルベット
その奥に広がるぼやけた闇色
突き刺さるような無慈悲な熱の痛み
連弾のピアノコンクールだと?冗談じゃない論外だ。
「無理ですね」
ほとんど反射的に答える。
透の切り返しに武藤の右の眉が跳ねた。
「無理?・・・嫌ではなく無理なのか?」
その言葉に一瞬はっとする。
「同じ、意味ですよ」
「君は音楽が好きだろう。特にピアノには特別な思い入れがある。違うか?」
「何ですかその決めつけ・・・」
そこでギクリとした。思い当たる節が俺にはありすぎる。
この人は知っているのか?
「そんなの君が昨日弾いていたあの演奏を見れば一目瞭然だろう。あのアラベスクは見事だった」
そうだ知っているはずがない。
だってあれは・・・
一瞬掠めた自分の記憶による動揺を隠すよう、俺は唇を噛んだ。
大丈夫だ。こんな所で知られているわけがないんだ。
「どうしても無理なのか?」
「えぇ無理です」
「そうか、じゃぁ仕方ないな。今週の土曜日に市民文化会館に1度来てみてくれ」
「はぁ?」
「そこで毎週楽団コモレビと言う団体が練習していて僕も参加しているのだが・・・」
「ちょっちょっと待ってください!」
おい!全然分かってねぇじゃねぇか!?