†鑑査委員制度†
やっとといった様子で俺たちに追いついた東城さんは旦那さんに向けて目を三角にした。
「何やってるんですか!急に飛び出さないで下さいよ!!ほら、透さんも驚かれているじゃないですか」
そう言って俺へ申し訳なさそうに眉根を寄せる。
旦那さんはそんな東城さんの様子に清々しいくらい爽やかに微笑むだけで、俺の隣へと椅子に腰掛けた。
「せっかく透くんが来てくれているのに挨拶もしないなんて失礼だろう。しかし、大きくなったな透くん」
そう言って俺の肩を何度か優しく叩く。
えぇーと?確か俺は初めて会ったように思ったが・・・
小さな頃にでも会ったことがあったか?記憶になく、困惑していると東城さんから補足された。
「透さんがまだ小学生だった頃によく・・・夫と透さんの演奏会を一緒に観に行ったので・・・それで」
「いやぁ大きくなったね」
眩しいものを見るような視線を浴び、少し腰が引けてたじろいだ。
「そうでしたか・・・」
返事もどこか濁る。
「今はピアノをやめてしまったと聞いていますが、全く弾かないのかい?」
あまりに直球の質問に目を丸くする。
「ちょっ!アナタ!!」
途端に東城さんは焦った声音を上げて旦那さんをいさめていた。
そう言えばさっきも昔の演奏会の事を軽く触れたけど、歯切れが悪かったな東城さん。
今まで何も言ってきたことがなかったけど、気にしてたんだな・・・
思わぬところで東城さんの心の内を見てしまい、俺は自分自身が情けなくなった。
「えぇもうずいぶん弾いていませんね」
旦那さんは他意なく尋ねてきたので俺は卑屈な気持ちにはならず、自然とそう答えた気がする。
本当は少し前にピアノ部の部室で弾いていたが、あれは少し規格外なので無視をする。
案の定東城さんは俺の受け答えに驚いた様子だった。
「そうなのかい?もう君の演奏を聞いたのは随分前なのでね、今の透くんはどんな演奏をするのか聴きたくてねぇ、弾かないのかい?」
「えぇ、僕自身が弾きたいと思っていないので・・・たぶん」