†鑑査委員制度†
「あなたがそう思っているなら金沢、三谷については書かないと約束してもいいわよ?」
意外な申し出に目を丸くした。黙っていると、姫宮ミコトは口を尖らせる。
「別に報告が目的って訳じゃないもの。あんなのついでよ」
するとそれまで黙っていた椿千里が会話に割り込む。
「たぶん、基本的には俺達と透くんは同じ考えだよ。俺やミコトだって、こんな理不尽な校則は認めてない」
心を見透かされているようでドキリとした。認めよう・・・俺はこいつらをなめていた。
「それじゃ何で鑑査してるかって言うと、まぁ色々あってね?そこは透くんも鑑査してるうちに分かってくると思うよ」
何も推薦状目当てだけでやってないよ。そう付け加えられて、本当に自分が無知な状態なのだと思い知った。
その椿千里の後を、姫宮ミコトは引き継ぐ。
「そうね。私はただ、そうした事情を全て把握しておきたいだけよ」
「クラスを一つにするために?」
一人、ついていけていないのは承知の上での質問だ。分からない事はしょうがない。俺には一つ一つ聞いていくしかないだろう。
「そう。女子の間に、階級社会のような物が存在している話しはしたわよね?」
「ヒエラルキーってやつだね」
頷くと姫宮ミコトは初めて困ったような表情を浮かべた。
「完全に狭窄視野ね。稚拙なのも大概だわ。大半が見た目でランクづけされるの。全く何が基準なんだか・・・馬鹿馬鹿しい」
彼女が何か堪えているように見え、さすがの俺も考えるところがあった。
「まぁ口ではいくらでも言えるのよね・・・私は実際、その中での自分の立ち位置を自然に把握できてしまっているし、結局はその縦列社会の一員なんだもの。彼女達を批判する事自体が傲慢なのかもしれない」
どう言葉を返したらいいのかほとほと分からず、黙って聞く事しかできなかった。
否定してあげられるほど、俺は姫宮ミコトを知らない。
「お前は考えすぎだよ。そんなのは男子でもままあるけど、みんなそんなこと気にしてない。それぞれが順応してるよ」
どうやら俺が言ってやれなかった言葉は、ここは椿くんの役割のようだ。俺もそれに乗っかって一度頷いた。