†鑑査委員制度†
何やら企んでいるようであり
「じゃ時間も迫っているし、僕はもう行くね」
そう端的に述べると、瀬川透は挨拶を返す間もなく立ち去ってしまった。
瀬川透は一見して強面だけれど、話してみると、生来の整ったその端正な顔だちには常に微笑みを絶やさない。
話し方、接し方も物腰柔らかで非常に紳士的で、評判通りなかなかの好人物だった。
そんな彼に今日が初対面だと言うのに、今思えば自分の態度はあんまりだったと考える。
それでも終始怒らず、辛抱強く話まで聞いていたのは、人ができているのか、はたまた何を腹の中で考えているやら・・・
今の別れ方にしても少々引っかかる。
言い方は至って丁寧なのに、どこか突き放すような・・・
それともそう思うのは、私が拗ねているからそんな風に見えたのかしら?
・・・・・・そうね。私は今、自分が拗ねている事を自覚している。
「ねぇ椿」
横に立つ、同業者で仲間の椿千里に話しかける。
「彼、どう思う?」
見上げると、椿の毛穴一つないきめ細かな頬が目にとまった。
こちら側は頬に髪が掛かっていないのだ。
椿はオシャレだと言うが、彼の髪型はどうも自分には理解できない。
せっかく綺麗な顔をしているのに台無しだと。ミコトは常々思っている。
「いい感じじゃない?」
椿は喉を鳴らして笑った。
笑っているはずなのに、椿の声からは一切熱を感じないのが不思議だ。
「彼、私たちの仲間になりえるかしら?」
不安げに尋ねると、椿はしばし長考してから答えた。
「どうかな?誠実そうではあるけど、何せあの強情さだからね。それに、鑑査の目的が未だはっきりしていないし」
まだそう推し量れないよ。そう言って技巧がかった仕草で肩をあげてみせた。
確かにそうだ。瀬川透からは、鑑査に関する何の理念も感じられない。
まぁ選ばれてからの期間も相当浅いそうだから、当たり前なのかもしれないけど・・・
それにしても、大学推薦の話にも興味薄そうにされると逆に不気味だ。
果たしてどういうつもりなのか。
「まぁ。しばらくは様子見って所だろ?」
椿の一言に頷き、ミコトは一歩先を歩き出す。