†鑑査委員制度†
柴田翔は、とある病院の前で立っち尽くしていた。
自分のクラスの教え子、瀬川透と資料室を後にしてすぐに、同僚との挨拶もそこそこ真っ直ぐここへ向かった。
今日こそはここへ訪ねようと決心していたのだ。
見上げた巨大な建物は灰色で無機質めいていて、威圧感から柴田翔の決心を鈍らす。
散々躊躇した末に、病院のエントランスをくぐる。
ナースステーションで、今日の目的である人物の部屋番号を聞くのにまた躊躇し、エレベーターのボタンを押すのにも躊躇する。
廊下の曲がり角で、いざ部屋の前までついても、ドアの前で一度止まる。
躊躇、躊躇の連続でやっとここまでたどり着いた。
ここは一人部屋だ。
中に入れば自分とその人の二人だけになる。
気持ちは自然と沈まざるをなかったが、決心は決めた。
見舞いの花を持ち直し、軽くドアを叩く。
「失礼します」
「どうぞ」
思わず息を詰める。
少しかすれたあの人の声に、自分が懐かしいと思ったことが意外だった。顔に苦笑いが浮かぶのを押し凝らしながら入室した。