†鑑査委員制度†
「向こうから明太子送るわね。東城さんにもいつもお世話になっているから、渡しといてね」
頷いてから俺は夕飯を食べることを口実に、母から距離をとって食堂へと向かった。
台所にはラップがかかったハヤシライスと、サラダが置いてあった。
俺は温めるのが面倒でそのまま席に座りラップを剥く。
ハヤシライスの隣に置いてあったスプーンを片手に、早速口へとほうばった。
うん。美味しい。
さすが、東城さん。
俺は少し小太りの、いつもチャキチャキしているパワフルなお手伝いさんを無意識に思い浮かべた。
東城初子さんは、俺が6歳の頃からこの家に通っているお手伝いさんだ。
小さい時はそれこそしょっちゅう出張ばかりで、家に居ない両親の変わりに俺の面倒を見てくれていた。
半場、親代わりのような人だ。
しかし俺が中学に上がってからというもの、昼間俺が学校に行っている間の家の掃除と、その日の夕飯と翌朝分の朝食を作って、夕方には帰ってしまうため
東城さんとはすっかり会う機会が減っていた。たまに残してあるメモと、帰る時と俺の帰宅が重なる間はまだ顔を合わせていたが・・・
それも中学までの話で、高校生になった今。
だいたいが7時を軽く越す時間帯に帰宅するので、ここ3ヶ月はまるで顔を合わせていなかった。
元気にしているだろうか?
ふとそんな事が浮かんで、今日は自分の方から美味しかったとだけでもメモを残してみようかと思った。
「透?」
いつの間にか母さんは食堂にやってきていた。何か不安げに声を漏らす。
何だか嫌な予感がして、俺はハヤシライスに視線落とたまま尋ねた。
「何?」
「やっぱり、いつも母さん達がいないのは寂しい?」
鼻で笑いそうになった。
何を今更?
俺は別に母さんや父さんがいつも家にいない事を何とも思っていなかった。
小さい頃からそれは当たり前で、それを何ら疑問に思う事もましてや寂しがっていた記憶もない。
「どうしたの急に?」
苦笑いを浮かべてそう尋ねると、母さんはとんでも無い事を言い出した。