†鑑査委員制度†
「重治さんがね、『透が急にピアノを止めてしまったのはきっと寂しいからだろう』って『きっと俺が教えに行くのを待っているんだ』何てこの間言っていたの」
その言葉にカッとする。頭を強く打ちつけたような衝撃と、目眩を起こしそうだった。
「私も透が何で急にピアノ止めちゃたのか気がかりだったし・・・」
「悪いけど」
有無を言わさない微笑みを母に返した。
自分がこうして自動的に作り笑いが出来てしまうのは、確実にこの親を持つ事に影響されている。
「全然関係ないよ。ただ受験もあったし忙しくなったから止めるって言ったじゃん?」
「でも・・・」
それでも母は食い下がる。
あんなに上手かったのに、と。
そのセリフに目の前がいよいよ赤く染まり出す。
俺の中で渦巻く激情を押さえる事だけで精一杯だ。
あぁくそ、飯が不味くなった。
どうにも我慢できずに俺は立ち上がった。
東城さんに心の中で詫びながら、生ゴミ処理機の中に残ったハヤシライスとサラダを放り込む。
蓋をしめてスイッチを入れると、ブイーンという機会音が細かく唸りをあげ、10数秒後には処理機の中は綺麗さっぱり何もなくなった。
「とにかく違うから、母さんたちはそんなこと気にしないでよ」
母と目を合わせずにそれだけ言うと、一度振り返り笑顔で答えた。
「タラコ、楽しみにしてるね。福岡の仕事頑張って」
そう告げ、食堂をあとにした。
そして以前視界の赤いまま、父、瀬川重治の事を思い浮かべる。
ふざけんなよ。お前が俺に引導を渡したんだろうが!
気持ちが高まり、つい部屋のドアを閉める腕に力が入った。