†鑑査委員制度†
我が親ながら分かりやすい。しかも勘違いの末、方向違いの暴走に呆れる。まったく東城さんにまで迷惑かけて…
あんたらは本当に、高校生の息子が親の不在を寂しがっていると思っているのか・・・
一瞬頭に血がのぼりかけたが、身長差がかなりある東城さんが、俺と話すため目線を無理してあげている姿が苦しそうで・・・でも穏やかに微笑んでいるから何だか毒気が抜かれた。
もう少し間合いを取ればそんなに見上げなくても済むのにな。
彼女のこうした距離感は小さいころから何も変わらないなと思う。
白髪混じりのふわふわとパーマのかかった髪を見下ろしながら、出会った頃から比べてだいぶ彼女が歳をとったように感じた。
昔はもっと“おばちゃん”に近かった気がする。今はどちらかというと“お婆ちゃん”がしっくりくる感じだ。
おっと、失礼か?
俺が黙っていると、東城さんは少し声のトーンを落とす。
「透さんは、また初子と一緒に住むのは嫌ですか?」
俺は急いで応答する。
「そんな事ない。嬉しいよ」
自然と顔には笑みが浮かび、それを見た東城さんはほっと息を吐き出した。満足そうに微笑む。
「さっ、朝食にしましょう!もう6時15分ですよ。透さんは早くお風呂に入ってお酒を抜いてきて下さいね」
そう言って東城さんは律動的な歩きで、また食堂へと戻って行った。
残された俺は目をしばたく。バレてたのか、さすが東城さんだ。
何となく敗北感と感心を抱きながら今度こそバスタブへと向かう。
それでいいのか?と思いつつも、それ以上何も言われないのはありがたかった。
シャワーを浴びながら、どうせ今日も色々巻き込まれるんだろうと、鑑査委員制度のこと。いまいち掴めきれない担任、柴田翔のこと。
まるで女王様のような姫宮ミコトと、声に冷たい印象を感じた椿千里について考えていた。
本当は俺みたいな人間が、他人に評価を付ける事は間違っている。向いてない、鑑査員なんて・・・
蛇口を止めて風呂場を後にする。
食堂に入ると、東城さんがすでに朝食の用意を済ませていた。いったい何年ぶりの光景だろうか?
「さぁちゃっちゃと食べちゃて下さい」
東城初子が笑いかける。