†鑑査委員制度†
電車に小1時間程揺られ、それから日下辺高校の最寄りの駅で降り、徒歩15分かけて通う。
往復2時間と30分。それが俺の通学スタイルだ。
「ふぁ・・・」
さすがに睡眠不足で、欠伸が止まらない。
全く馬鹿な事をした。自分の愚かさに顔は自然と渋くなる。
俺は昨日の出来事を、通学路中の水の張った田んぼを眺めながら、しばし反芻させた―――――――――
そう、部屋に戻った俺は酷く苛立っていた。
そんな時、ケータイ電話がけたたましく鳴り響き始める。
ディスプレイを確認しないまま、何でもいいから現状打破したかった俺はケータイをとった。
『トオル?久しぶりー!ねぇ今日飲みに来ない?キョウジの家で飲み会やってんのー』
電話口からは、耳につんざつような女の子の声が聞こえてきた。
その声にさらに苛立つ。しかも、この子は誰だったか?
「何時から?」
一応はそう答えたものの、果たして自分は乗り気なのかどうか。自分でもよく分からないまま答えていた。
『もぅ始まってるよ〜』
如何にも頭の悪そうな、間延びした声の背後に確かにざわざわと別の人の気配が窺える。
するとそこへ、突然見知った声が割り込んできた。
『・・・貸せよ。あっあートオルか?』
「キョウジさん?」
『そう俺。最近どーしてたんだ?全然連絡つかないしお前』
キョウジさんは中学3年生のある時期に、短期的に付き合っていた遊び仲間だった。
年は俺より1つ上。透き歯の目立つ前歯を、いつも大口を開けて豪快に笑っていた。
人口色の明るい髪を、ガチガチにワックスで固めた特徴的な彼の容貌が同時に浮かぶ。
「で、何?トオル来るの?」
どうしようかとしばし考える。
キョウジさんといるのは気楽だった。
いつでも終われる関係。俺がケータイさえとらなければ、俺たちは繋がらない。
本当なら今日だって、誰ともしれない名前が表示された電話は受けなかっただろう。
どうせ切るなら、最後にもう一度付き合うのもいいかもしれないと思った。
「いきます」
今思えば、非常に軽率だった。