†鑑査委員制度†
1人暮らしをしている彼のアパートを訪ねると、6畳ほどの狭い空間に男女合わせて10数人の若者がいた。
誰もがまだ明らかにハタチを過ぎた風貌ではない。
床には空いたビールの缶や、すでに潰れた人が横になっていた。
キョウジさんは俺が来てすぐに気がついたようだ。
「トオル!」
「こっち来いよ」と彼は俺を呼んだ。
「みんなだいぶ出来上がってますね」
「まぁな、お前もほら」
キョウジさんから飲みかけのビールが手渡される。
俺は「どうも」と答えながら一口煽った。
正直なところ、アルコールはそんなに好きではない。あまり得意でないというのも理由の一つなんだけど・・・
でもキョウジさんと遊ぶ時は、大抵そこに存在していた。飲み会と言う名は彼らの遊びプランの一部だ。
なので俺も倣って最初の一口は飲む。そしてその後は飲んでいる振りか、酔った振りでもしてその場をやり過ごせばよかった。適当にはしゃいだり、誰かと絡んでみたり。
俺はキョウジさんの名字を知らない。学校に行っているのかどうすら分からない。
それは向こうも同じで、彼は俺の名前と電話番号しか知らないのだ。
とても薄くて単純な関係。それなのに、キョウジさんはいつも自分を相棒だと他の人によく紹介した。
「すごく気が合う奴なんだ」「面白くて好きなんだ」と。
その時はキョウジさんの隣に女の子が2人いた。
「きゃー何この子?かわいぃー!初めてみた」
「俺の相棒。トオルってんだ。いい奴だよ」
俺はいつものようにそこで笑っているだけでよい。大袈裟におどけて、軽口を叩く。
ここでの俺は、トオル。
もはや別の人物になりきっている自覚がある。