†鑑査委員制度†


1人暮らしをしている彼のアパートを訪ねると、6畳ほどの狭い空間に男女合わせて10数人の若者がいた。


誰もがまだ明らかにハタチを過ぎた風貌ではない。


床には空いたビールの缶や、すでに潰れた人が横になっていた。


キョウジさんは俺が来てすぐに気がついたようだ。


「トオル!」


「こっち来いよ」と彼は俺を呼んだ。


「みんなだいぶ出来上がってますね」


「まぁな、お前もほら」


キョウジさんから飲みかけのビールが手渡される。


俺は「どうも」と答えながら一口煽った。


正直なところ、アルコールはそんなに好きではない。あまり得意でないというのも理由の一つなんだけど・・・


でもキョウジさんと遊ぶ時は、大抵そこに存在していた。飲み会と言う名は彼らの遊びプランの一部だ。


なので俺も倣って最初の一口は飲む。そしてその後は飲んでいる振りか、酔った振りでもしてその場をやり過ごせばよかった。適当にはしゃいだり、誰かと絡んでみたり。


俺はキョウジさんの名字を知らない。学校に行っているのかどうすら分からない。


それは向こうも同じで、彼は俺の名前と電話番号しか知らないのだ。


とても薄くて単純な関係。それなのに、キョウジさんはいつも自分を相棒だと他の人によく紹介した。


「すごく気が合う奴なんだ」「面白くて好きなんだ」と。


その時はキョウジさんの隣に女の子が2人いた。


「きゃー何この子?かわいぃー!初めてみた」


「俺の相棒。トオルってんだ。いい奴だよ」


俺はいつものようにそこで笑っているだけでよい。大袈裟におどけて、軽口を叩く。


ここでの俺は、トオル。


もはや別の人物になりきっている自覚がある。
< 64 / 143 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop