チョコレートフォンデュ
行きの車中会話はほとんど無く、豊の電話が鳴る度に、りぃからだなっと思い、複雑な気持ちになった。

罪悪感は全くと言っていい程なかったが、もちろん自分のしている事が正しいとは思っていなかった。

毎週土曜日に会っている私達だが、土曜日にりぃが豊に電話してこなかったのは、豊がバイトしてるって嘘をついていたから。

週一回のバイトで、しかも親が金持ちの豊がバイトする理由などないのに、りぃは未だにその嘘に気づいていない。

今日はきっと、そんな事も関係なく、昨日の別れ話の事が気になって電話してきているんだろうと私は思っていた。


よく私達が利用するレストランに着くと、初めて見る顔の女の子が受付にいた。

何名様かと聞かれ、明らかに二人だろっと心の中でつっこんでいると、二人ですと言いながら豊はピースサインを作って、その新人の子に言った。


まだ昼時と言える時間にも関わらず席は所々空いていて、私達は一番奥のソファの席に通された。


即決できのこのクリームパスタを注文し、豊はブラックコーヒーだけを注文した。


「食べないの?」


「あんまお腹空いてないから」


「りぃの事が気になるならちゃんともっと話し合えば?」


豊は私をじっと見つめ、


「りぃとの事は俺の中では終わった。杏と付き合いたい」


いきなりの不意打ちに何も言えないでいると、さっきとは別の子がコーヒーを持ってきた。きっとさっきの子は案内だけなのに、私達がメニューも見ずに注文してしまったから、ウェイトレスに伝えてくれたんだろう。


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