チョコレートフォンデュ
私はすぐにその異変に気づいた。

それは、牧野さんの言った一言だった。

「秋・・た、田中くん、マネージャーが、明日休んで大丈夫だって。」


顔を少し赤らめた理系の男は今までで一番人間味のある表情をした。

「あ、そうですか。」

すぐにそっぽを向き、今さっき帰っていったお客さんのテーブルを片付けに行った。

牧野さんは動揺が隠せないのか、カウンターの内側にいる私と目を合わせようとしなかった。

それに、なんで今までタメ口を聞いてた人に急に敬語・・・

分かりやすいなぁ。


そう。田中さんの名前は、薄ら覚えだったけど、確か秋人だった。


名前で呼び合う仲。そして、それをバイト先で隠してるなんて、何かあるに決まっている。

牧野さんて、全然派手な感じじゃないけど顔立ちは綺麗で、だからかっこいい人と付き合ってると思ってたけど、理系男が趣味だったんだ・・・。

心の中で笑っている私には全く気づかない牧野さんは、コーヒーを持ったまま奥に入って行ってしまった。

実に分かりやすいカップルだ・・。
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