君が好きだというならば~episode1~
もうすぐ、夜が更けるな………
「それで…?」
薪が燃える音以外、何も音がない空気の中
老人は、燃えている炎から視線を外さず問いかける。
炎から老人へゆっくり視線をうつせば
目の前にいる老人は、炎の光を反射して昼間よりもしっかりした存在に見えた。
「お前さん、名はなんという?」
そう言って、老人は視線をこちらによこす。
昼間よりも、柔らかいその口調に
幾らか力が抜けた。
名前…か…
ここは本名を名乗ったほうがいいのか?…
今はただでさえ――
「安心せい。
お前さんがなんらかの事情を持っているのは分かっておる。
わしは、お前さんに危害を加えるつもりはない。
むしろ、住む場所にでも困っていたら
好きなだけここにいるとよい」
俺の考えていることが分かったのか、老人はゆっくりと言って
…少し笑った気がした。