君が好きだというならば~episode1~
「そうじゃ。
わしが誰か分かるか?」
彼は何回か老人の名前を呟き
その瞳からはだんだんと靄が晴れてきた。
「分かります、大丈夫です。
俺はもしかして、また…?」
老人……シュントクは彼の言葉に頷く。
「そうでしたか」
一つ大きな深呼吸をして、彼は布団から体を起こした。
「少し頭冷やしてきます」
シュントクにそう告げ部屋を出ていこうとしたが
「待ちなさい。
これで体を拭いて、これに着替えてから外に出なさい。
外は風もある。
すぐに冷えるぞ。」
タオルと着替えを礼を言って受け取ると、カイは寝床を後にした。
このままじゃ、カイは倒れてしまうのぉ…
どうしたもんか。
ふらつきながら出ていく後ろ姿を見ながら考え込んでいた。
せめて…あの名前
わかな…と言ったかの。
どこかで聞いたことのある名前なんじゃが…
カイも名前ぐらいしか分からないと言っておったし…
わしも年を取ったのぉ。
カイが出ていった扉を見ながら、シュントクがついた一つの溜め息は
酷く部屋の中に響いていた。