ぼくと世界とキミ

「どうぞ召し上がれ」

男はそう言ってテーブルの上に料理を並べた。

ゴムみたいに固いパンと、ただ卵を焼いただけの目玉焼き。

……もちろん調味料などは無い。

城に居た頃は何十人も座れる様な長過ぎるテーブルに、美しい料理が山の様に並んでいた。

ついこの前まで俺は、それが当たり前だと思っていた。

……なんと愚かだったのだろうか。

ここに来て初めて、自分がとても恵まれていた事を知った。

「おっちゃんは……食べないのか?」

窺うように男を見つめ問い掛けると、男は首を傾げて見せる。

テーブルにはいつも男の分の料理は無い。

「最近あまり食欲が無いのですよ。……もう、年ですかね?」

そう言って困った様に笑う男を見て、また胸が酷く痛んだ。
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