ぼくと世界とキミ

「それで……ご用件は?」

そう言ってカインがジルに優しい笑顔を向ける。

「フリーディア国第一皇子、ジル・フリーディアです。単刀直入に申し上げます。我がフリーディアは現在、グレノアより度々の侵略を受けています。それを退けるため……貴国との同盟を組ませて頂きたい」

ジルはそう言って玉座の前に跪き、深々と頭を下げた。

……ジルが誰かに頭を下げると所なんてそうそう見られる光景ではない。

誰かに頭を下げるくらいなら《死》を選ぶんじゃないかと思う程にジルはプライドが高い奴だと思っていた。

……そんな彼が躊躇う事無く頭を下げている。

それはよく考えれば……今のフリーディアの現状と、ジルの抱えているモノの大きさを示している様な気がした。

「フリーディアがグレノアの手に落ちる事になれば、次に狙われるのはこのメルキアです。是非、寛大なお答えを……」

そう言って顔を上げたジルの蒼い瞳が、真っ直ぐにカインに向けられる。

カインは何かを考える様にただ何も言わないまま、ジッとジルを見つめ返していた。

辺りにシンとした静寂が広がり、声を出す者は誰も居ない。

そんな緊迫する様子をセリアと二人で茫然と眺めている。

……俺は黙ってた方がいいな。

……敬語、使えないし。

口を挟む事も動きも見せる事もせずに二人を見つめていると、それから暫くしてカインが小さく息を吐いた。

「……分かりました。同盟を組みましょう。ですから顔を上げて下さい」

そう言ってカインが笑いかけると、ジルはハッと顔を上げ……それから嬉しそうに顔を綻ばせた。

「フリーディアにはこちらから兵を出しましょう。物資の援助も……」

それから暫く二人は何やら話し合うと、同盟の契約書にサインを交わし合った。
< 145 / 347 >

この作品をシェア

pagetop