ぼくと世界とキミ
話し合いが終わると、カインの提案でこの城に泊めてもらえる事になった。
「今お部屋を用意させます。私は仕事が残っていますのでこれで……」
そう言ってカインは穏やかな笑みを浮かべると、自分の部屋に戻っていこうとした。
「……あ……カイン…様!!」
その彼の背中を見つめたまま急に大切な事を思い出し、慌てて彼を呼び止める。
……《証》の事を忘れていた。
セレスの話曰く、メルキアにも《証》を持った人が居る筈だ。
「無理に敬語を使わなくていいですよ?カインと呼び捨てて下さい」
そう言ってカインは俺を振り向くと、優しく笑う。
正直……助かった。
俺も皇子様生活が長かったせいか、誰かに敬語で話しかけた事なんてなかった。
タメ口呼び捨て……ドンと来い状態。
普通は礼儀作法とかで口の利き方を習うのかもしれないが……俺は《んなもんくだらない》とサボってばっかりだった。
お陰で全くと言っていい程、口の利き方を知らないと自分でも自負している。
「あのさ、カインは体のどっかに変な痣みたいのがないか?それを探さないと俺、強くなれないらしくて……」
その俺の問い掛けに、カインは急に表情を曇らせると俯いてしまった。
「私には……ありません」
カインはそれだけ言うと俺から目を背け、何も話そうとしない。
困った様にセリアを見ると、セリアはそっと俯くカインの顔を覗き込んだ。
「必ず居る筈なんです。カイン様には無くても、他の……例えば御兄弟とかには……」
「私に兄弟はいない!!」
そのセリアの問いかけに、カインが急に声を荒げた。
「……すみません」
セリアはそう言って謝ると、思いのほか冷静にカインを見つめていた。
するとカインはハッと顔を上げ、それから悲しそうに瞳を揺らして小さく頭を下げる。
「こちらこそ大きな声を出してしまって申し訳ない。具合が悪いようなので……これで失礼します」
カインはそう言うとバッと身を翻し、逃げる様に自分の部屋へと消えて行ってしまった。